LOGOS PARKの撮影終了後、編集部の旅は四万十川へと続いていきます。旅にアクセルのようなものがあるとしたら、ベタ踏みして一気に加速したのが、四万十川流域付近へと移動した夜。

 魚どころの高知県なのになぜか焼肉を食べながら、打ち合わせをしていた時のことでした。口ベタなくせに、梅雨時の晴れ間ぐらいのレア感でたまーにいいことを言う旅の相方・カメラマンの関くんがこんなことをつぶやきました。

「光を撮りたいんだよね」

 サンライズ/サンセットというキーワードは、おもしろいけれど、日の出と夕焼けだけを撮っていてもおもしろくない。だから、光というキーワードまでひろげたなら、どうか。おもしろそう! 一瞬でそう思いました。

 この灯台の光は、四国最南端の足摺岬展望台からのものですが、こうした真っ直ぐな意味での〝光〟だけでなく、もっとひねったひろがりを予感したのです。

 そこで、おっさんふたりは、タウン情報誌をめくり始めます。光あるところを求め探したというわけです。

 バチンと頭の中で炸裂音が響くほどに、僕が惹きつけられたのが「たたら製鉄」でした。四万十川に寄り添うように位置するその工房では、鍛冶体験が楽しめると。正式名称は「たたら製鉄・古式鍛造 工房くろがね」とあります。

<宮崎アニメでなにが一番好きですか?>という質問ぐらい人類を悩ませるものもないと思うのですが、個人的には『もののけ姫』はかなり上位に躍りでます。そんな『もののけ姫』の舞台のひとつが製鉄所のたたら場で、エボシ御前というリーダーを筆頭に女たちが元気のよい村であり、職場でした。製鉄所ですから、赤く光ります。

 光、たたら、もののけ姫、四万十川。

 これはもう行くしかない。でも、ひとつだけ問題がありました。

 通常のこの手の取材は、アポイント(予約・事前相談)をとることがふつうなのですが、僕たちはアポ無しでした。だって、ついさっき〝光〟というテーマが決まったのですから。

 でも、林信哉さんは笑顔で迎えてくれました。鍛冶職人の道20年の林さん。若い時は旅を重ね、流れのままに四万十川を訪れ、鍛治の師匠と出会っていまに至るそうです。だから、取材というより、ほぼ旅人な僕たちをやさしく迎え入れてくれたのかもしれません。

 となりの男性はジェシーさん。「たたら製鉄・古式鍛造 工房くろがね」での1日体験が強烈で、移住するほどに、たたら製鉄の虜になってしまったそう。

 林さんが、たたら製鉄の工程を見学させてくれました。

 工房にたたらの光が灯った頃、不思議な偶然が重なりました。「サンライズ/サンセット」という僕らの企画タイトルに呼応して、「そういえば」と林さんが言葉を続けたのです。

「そういえば、師匠の教えを思い出しました。たたら製鉄の教えなんですけど、〝はじまりは朝日のように、終わりは夕日のように〟と」

 玉鋼やケラと呼ばれる材料を熱していく際、はじまりは透明感のある赤(約1000℃)で、終わりは鮮やかなオレンジ色(約1500℃)を目指す教えのことでした。不思議な偶然にテンションがあがってしまった僕らは、厚かましくも、林さんにこんなお願いをしてしまいます。

「スキュア、作ってくれませんか?」

 繰り返しですが、そもそも僕らはアポ無しです。「たたら製鉄・古式鍛造 工房くろがね」では、ナイフを体験製作する人はいるらしいですが、スキュアって。おそらく、前代未聞です。案の定「スキュア?」と林さんは、BBQのクシ焼き用アイテムの存在を知らないご様子。『もののけ姫』の登場人物であるジコ坊という僧侶は、主人公を評して「バカには勝てん」とつぶやくのですが、林さんからすると僕たちもそんな感じだったのかもしれません。

 なのに、林さんは快諾、ジェシーさんと共同作業で鍛造してくれたのです。

 後日、関くんの分と合わせて2本のスキュアが東京に届きました。スキュア部の次なる活動で大活躍すること、間違いなしです。

 ちなみに、関くんが選んだ光は、蛍でした。

 僕らがお世話になったのは「四万十川 屋形舟 さこや」。夕方、沈下橋のたもとに集合という時点で、趣がありましたが、ラストは圧巻の蛍の光でした。

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