四万十川と足摺の旅では〝光〟というキーワードを旅の相方が口にしてから、ぐぐっとアクセルが踏まれた感触がありました。「『もののけ姫』の〝たたら〟を知っていますか?」というトピックスではそんなお話を書いてみたのですが、父島と母島の旅のアクセルはなんだったかといえば、出会う人たちの〝言葉〟だったような気がします。
イルカもしかり。同じ宿で一緒になった女性たちに「父島での一番の楽しみってなんですか?」と聞くと「それはもうイルカですよ」と。ひとりの女性は動画でバッチリと水中のイルカの様子を収めていて、おっさんであるワタクシでさえ心の内で(かわいい♡)とつぶやかざるをえませんでした。もうひとりの女性も、ドルフィンスイム(一緒に泳ぐ)やイルカウォッチング(愛でる)のツアーに、今回の旅に限らず複数回参加しており、勝率は5割ほどだとのこと。つまり、2回行けば1回はイルカを見られるわけで、内心(かわいい♡)となってしまったおっさんをもう誰もとめられません。6月24日、ツアーに参加したのでした。
ところがです。
そのツアーは、南島という人気スポットに上陸するチームと、上陸せずにイルカウォッチングに専心する人たちにわかれるのですが、もちろん後者を選んだ我々がウォッチできたのは、ボニンブルーと呼ばれる美しい海と、南島に生息するカツオドリのオリジナリティあふれるフォルムと、第二次世界大戦時に難破してしまった輸送船のみ。NOイルカ。NOドルフィンです。ちなみに、イルカとドルフィンはほとんど同義とする説が一般的のようでした。ま、とにかく(かわいい♡)は見られなかった。同じ宿の女性陣の言葉通り、勝率5割なら仕方ないよなぁと陸にあがって自分を慰めていたのですが、居合わせた島の少年にふとこんなことを聞いてみたのです。
「イルカを見たことある?」
その少年は僕の質問には答えず、違う言葉をくれたのでした。
「イルカは見るんじゃなくて会うんだよ」
なるほどなるほどなるほど。自分に膝が100箇所あったのなら100回は膝を打ったことでしょう。激しく納得した僕は、以後、「イルカを見る」を禁句とし「イルカに会いたい」と口にすることにしました。いわゆる言霊ってやつです。そして、23区のほうの東京に戻る当日の6月27日、つまりはラストチャンスに、念願のイルカに会うことができたのでした。ありがとう、島の少年。「イルカは見るんじゃなくて会うんだよ」、本当でした。