ストーブ列車と津軽の旅。SPECIAL MOVIE 同時掲載!

VOL.83

ストーブ列車と津軽の旅。SPECIAL MOVIE 同時掲載!

その列車は、春の出会いがきっかけでした。月刊LOGOS先月号で紹介した「春を追いかけて。」の青森編で津軽鉄道のアテンダントさんが、冬に走るストーブ列車について教えてくれたのです。まさに、「寒い季節があたたかい」(LOGOSの冬のテーマです)じゃあーりませんかと、胸躍らせて青森津軽地方を目指しました。もちろん、恒例の冬のアクティビティも体験済。「雪国地吹雪体験」という漢字7文字だけで“しばれそう”なルポからどうぞ。

撮影&MOVIE/関 暁   取材・文/唐澤和也

01雪国地吹雪体験!

1月28日。いざ
角巻(かくまき)にもんぺ姿のこの女性、地元の方じゃありません。編集部が訪れた1月28日に「雪国地吹雪体験」ツアーの参加者なのです。もちろん、冬企画恒例LOGOSスタッフも参加してきた当日は、東京が48年ぶりの大雪に見舞われた週末でした。へば、しばれてきます!

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02ストーブ列車とおしるこ。

3日目の1月30
憧れの津軽鉄道・ストーブ列車の旅は、車内で焼いてもらえるスルメ&くいっと傾ける日本酒と窓から見える雪景色が最高だったのでした。そして、編集部が一番楽しんじゃってすみませんパターンだけでなく、特別な許可をいただいて開店してきた駅前おしるこも大人気でした。

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03

「ゴー」とか「ビュー」とかの音がしない。
 地吹雪とは雪が降るのではなく地面に積もったサラサラの雪が強風で舞い上がる現象のこと。なのに、いま積もっている雪は重みがあり、風も凪いでいた。そもそも、降るほうの雪すらその気配がない。
「すん」。あえて音にするのならそんな感じ。
 津軽の旅の初日。「雪国地吹雪体験」でのことだった。
 心の中で「地吹雪、起きますように」と願ってみるが、天気のことだからしょうがないかと思い直す。早いもので5回目を数える今年の冬企画のテーマは「ストーブ列車」と「津軽の旅」。後者の目玉企画が「雪国地吹雪体験」だったのに、「すん」。プチ地吹雪体験ができちゃうとかではなく、まるっきりの「すん」というのが、いかにも月刊LOGOSっぽい。
 降る雪はなくとも、足元ではサクサクと音がする。やっぱり、雪はいい。白い世界で佇んでいると、いろんなことを思い出したり、ふだん考えないことをあれこれと思索できるのがいい。
 てなことを思い出していたら、雪が降ってきた。
 とはいえ、風はあまりなく、地吹雪は起こらない。
 それでも、用意したたき火台から、ぼわっと立ち上る赤い炎と天より舞い降りる大粒の白い粉のコントラストが美しい。
 もんぺ姿にかんじきを履き、角巻という防寒着をまとった参加者たちも、たき火にあたるとあたたかそうで、なんだかニヤニヤしているようにも見える。時間の都合でゼロから焼くことは難しそうだったので、東京・豪徳寺の名店『焼き芋ふじ』で購入しておいた逸品も、たき火台の中であったまったようだ。ほくほくと食べる参加者たち。寒い季節があたたかそうにも見える。
 津軽の言葉には標準語に訳しづらい言葉があるそうだ。
 たとえば、「なんもなんも」。「雪国地吹雪体験」というネーミングだけで凍えそうなこのツアーの発案者にして、今回のガイドを担当してくれた角田周さんの口癖だった。一般客がいるにもかかわらず、たき火撮影を快諾してもらったことにお礼を言うと「なんもなんも」と笑ってくれた。その言葉の響きがいい。

 翌朝は、雪国感が加速していた。
 一夜にして積もった雪は15センチほど。昨日は黒い部分が残っていた道路のアスファルトも、真っ白に覆われている。
 この日の編集部には、ストーブ列車に乗る前に重要なミッションがあった。題して「駅で出逢う人々にLOGOSアイテムを使っておしるこを振る舞いたい」大作戦。どうせならおいしく食べてもらいたいと、宿泊先の弘前市で『もち処一久』に立ち寄り、予約しておいたつきたてを購入する。
 おしるこ大作戦の舞台になったのが、津軽五所川原駅前だった。
 月刊LOGOSでは前号の「春を追いかけて。」でも、この路線の津軽鉄道にお世話になっていて、芦野公園駅の桜と、桜と鉄道のコラボ風景を写真に収める鉄道ファンの姿が印象的だった。春に乗車したのはストーブ列車ではなかったが、女性アテンダント(バス旅行で言うバスガイド)の津軽なまりのガイドが秀逸で、「東京でタクシーの運転手さんに“錦糸町”と津軽弁で言うと“警視庁”に連れて行かれます」との津軽あるあるに爆笑してしまう。
 そして、この冬。駅前のレストランで昼食をとっていると、偶然にも、おそらくは「錦糸町と警視庁なアテンダント」さんが暖簾をくぐってくるではないか。おそらくというのは、津軽鉄道のアテンダントさんは複数人いるし、はっきりと顔を覚えているわけでもなく、春のあの人という自信がなかった。
 でもたぶん、間違いない。そう感じるのには、前日の伏線があった。


 昨日の雪国地吹雪体験のあとのこと。芦野公園の喫茶店「駅舎」でコーヒーを飲みあたたまっていると東京在住の津鉄ファンと知り合いになる。田島さんという男性だった。田島さんはプライベート用の名刺に「休日はだいたい津軽にいます」と書いちゃうぐらいの熱烈な津鉄ファンで、そのきっかけのひとつがアテンダントさんの人柄のよさだったなんて話になる。「僕らも春に津軽鉄道に乗って“錦糸町と警視庁”に笑っちゃったんですよね」などと返すと、いきなり田島さんにスイッチが入った。
「みっちょんだ! それはみっちょんに間違いない!」
 そんな津軽あるあるをガイド中に言うのは、みっちょんさんかあとひとりしかいない。でもたぶん、その感じはみっちょんさんだと田島さんは断言した。
 冷静に考えると、確率的には2分の1だし、そもそも「その感じ」ってどの感じですかという話でもある。でも、熱く語ってくれるのが「休日はだいたい津軽にいます」な田島さんだ。春に楽しませてくれたのは、みっちょんさんかもしれない、この際みっちょんさんでいいや、いや、みっちょんさんがいいという気持ちにさせられてしまっていた。
 そんな伏線があっての昼食中に、おそらくは、みっちょんさんの登場である。
 なぜ、おそらくなのか。田島さんと違ってこちらは、みっちょんさんの顔と名前が一致していない。しかも、いまいる人がみっちょんさんだとしても、春のあの人と同一人物かどうかの確信もない。でももし、春のあの人がみっちょんさんで、いま目の前にいる人もみっちょんさんだとしたなら、こんなにうれしい偶然もない。一瞬だけ躊躇したが、思い切って声をかけてみた。
「突然すみません。みっちょんさんですか?」
「……はい」
 みっちょんさんだった。ただし、かなり引いてらっしゃるご様子。ちゃんと説明しなくては。そして、春のあの人と同一人物なのか確かめなくては。
「実は、春に津軽鉄道に乗ったんですけど、錦糸町と警視庁の話って……?」
「あぁ、はいはい。しますします。それ、たぶん私です」
 みっちょんさんは、春のあの人だった。彼女は「たぶん」と言ったが、間違いない。顔は覚えていなかったが、春のあの人の声はよく覚えていたからだ。 
 そんなわけで、みっちょんさんこと小枝美知子さんがアテンドするストーブ列車に乗り、そのあとで、おしるこ大作戦を約束できたのだった。

 小枝さんはアテンダント仲間の阿部美紀さんを連れてきてくれた。
 小枝さんは9年、阿部さんは1年半というキャリア。ふたりとも東京ですごした時期を経て帰省。小枝さんは弘前、阿部さんは五所川原の出身だそうだ。
 おしるこが大好きな阿部さんが言う。
「高校生の時は津鉄で学校に通っていました。この仕事をしてみてまず思ったのが、地元なのに知らないことが多いということ。たとえば、芦野公園の桜の木って1200本なんですね。高校生の頃は、すげーいっぱいあるなぐらいしか思っていなくて(笑)。太宰治の斜陽館という建物は、昔は旅館でした。私が子供の頃は旅館で、ふつうにその前を歩いたりしてたんです。でも、ストーブ列車でガイドをしていたら、斜陽館で結婚式をあげたという人が乗られてきて。お話したら『30年ぶりだよ』って。雪景色ひとつにしても私たちには日常なんですけど、その人からしたらすげー特別なんだなぁって」
 ちなみに、こちらの女性は「すげー」という言葉をよく使うそうだ。
 みっちょんこと小枝さんも、ストーブ列車と乗客の思い出を教えてくれた。
「戦時中に関東からこっちに疎開していた方が、『50年ぶりに乗るんだ』とおしゃっていたのは印象的でした。でも、50年ぶりだから記憶もあやふやですよね? そしたらたまたま乗り合わせた地元の方と『この辺に小学校があった気がする』『うん、あったあった』なんて盛り上がってくださって。若い人も来てくださいます。ひとりで来て、『雪景色を見て吉幾三を聞きながら、一杯やるのが夢だった』という男性もいらっしゃいました。ストーブ列車は車内でするめを焼いたり、日本酒の販売サービスがあったりするんですけど、その方はイヤホンで吉幾三さんをずっと聞きながら日本酒を傾けていて。すげー楽しそうでした(笑)」


 ストーブ列車に乗ってみると、ふたりが教えてくれた小さな物語がここで生まれる理由がよくわかる。地元の人を別にするなら、ストーブ列車は移動が第一の目的じゃない。はじめて乗った身ですら、どこか懐かしい感じがする。思い出や思い入れがある人ならなおさらのことだろう。津鉄ファンの田島さんは、Youtubeでストーブ列車に憧れた外国人観光客と知り合いになり、「その人、ガッツポーズしてたもんね」と教えてくれた。
 そして、最終日。
「ひゅぅぅぅぅぅぅぅ」と乾いて吹きすさぶ音がする。
 雪が降るのではなく地面に積もったサラサラの雪が強風で舞い上がる現象が、まさに目の前で起こっている。
 寒いというより痛い。涙と鼻水が止まらない。
 うぉぉぉぉぉぉぉと叫びたくなる。
 体感温度はマイナス15℃ほどだろうか。白い世界をブリザードが吹き荒れているけど、雲の隙間から輝く澄み渡った青空が美しい。
 本物の地吹雪体験ができたのは、角田さんのおかげだった。
 最終日にどうしても雪上BBQがしたかった編集部は、角田さんにうってつけの場所はどこかと相談していた。角田さんは火の使えるキャンプ場に案内してくれただけでなく、「地吹雪体験のはじまりの場所に行ってみる?」とわざわざ連れてきてくれたのだ。はじまりの場所と聞いてテンションがあがらぬわけがない。
「僕は金木駅のそばで生まれ育ったんですけど、大学から東京に出たんですね。ミュージカルの仕事などを経験したのちに地元に戻ったんですけど、最初は大変でした。地元の商工会の青年部に入ったりして地域で活動してたんだけど、新参者がああだこうだと東京と比較するようなことを言うと、誰も耳を貸してくれなくなる。これはまずいぞと地域を調べ直して、冬をどうにかしなきゃダメだ思ったんです。春は芦野公園の桜がある。夏には祭りがあって秋は紅葉が美しい。でも、冬の観光資源はなんもないと気づいたんです。それである時、地元の人にとっては厳しい現象である地吹雪を逆手にとったらどうかと思いついて。地元の人には『そんなもん誰が来るんだ?』なんて大反対されたけどね(笑)。でも、協力してくれる人もたくさんいて、この場所から地吹雪体験ははじまりました」
 だからだったのかと思い当たる。
 こちらの無茶なお願いにも、角田さんは「無理だ」という言葉を選ぶことがなかった。むしろ、おもしろがってくれているようだった。かつての角田さんが考える「おもしろい」を実現する道のりが簡単ではなかったから、人生の後輩にそういう思いをさせたくなかったのかもしれなかった。
 僕らは心からのお礼を角田さんに告げた。
 返ってきたのは、もちろん、あの言葉だ。
「なんもなんも。こっちこそ勉強になったよ」
 津軽の言葉は標準語化するのが難しいものがあるという。
 個人的には「なんもなんも」を関西弁の「かまへんかまへん」と訳すとしっくりきている。あるいは、「Don’t worry,be happy」という、ずいぶん昔に流行った曲のタイトルのニュアンス。たぶん、「なんもなんも」には、「くよくよすんな」なんて意味は含まれていないと思うけど、角田さんが口にすると、なんだか応援してもらえているような気持ちになる。
 厳しいけれど、美しかった津軽の冬。
 今度は秋の津軽も訪れてみたい。津軽鉄道から眺める一面に広がる黄金色の風景は、みっちょんさんいわく「すげー最高」だそうだ。そして、もう少し津軽のことに詳しくなれて観光客の人に道を尋ねられたりしてお礼を言われたら、こう返事をすると決めている。なんもなんも。とびっきりの笑顔を添えて、角田さんを見習うと決めている。


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