02雪のなかでもおもちは
食べたい。
一ノ関駅近郊の名店めぐりをしたのは12月16日のこと。「01おもち、持ち上げ中。」の前日だったのですが、車の移動に困るというのでもなく、北国を彩るいい塩梅の雪が降っていたのでした。趣のある「松栄堂」ののれんをくぐると……。
まさに〝雪のなかでもおもちは食べたい〟な3品は、併設されているカフェで雪降る景色を眺めながらいただきました。写真上から「ずんだ餅」「ごま餅」「おちゃ餅」。「ごま餅」のごまは、松栄堂の銘菓「ごま摺り團子」で使用されているごまであり、遠方から訪れるファンがいるほどの人気。「おちゃ餅」は盛岡の名産なので一関で食べられるのは松栄堂のみ。くるみ醬油が絶品です。
一関市地主町3-36
電話番号
0191-23-5008
営業時間
9:00〜17:00
定休日
水曜日(月2回)
※銘菓「田むらの梅」「ごま摺り團子」などのお土産コーナーも充実。ずんだ餅の冷凍専用お土産もあり。
続いて訪れたのが、産地直販所の「新鮮館おおまち」。あいかわらず雪は降っとりますが、さっそく、お店の中をのぞいてみましょう。
観光客向けというよりも、地元の方の食卓を支えているお店でした。ゆえに、品揃えも生活感満載で、各種おもちのパック売りを見つけた時には、いかに一関でおもちが愛されているのかを体感できたのでした(だって、東京にはありえない商品ラインアップ!)。スタッフの佐藤裕之さんが手にしているのは、切り餅とひきな。ひきなは「01おもち、持ち上げ中。」でも教えてもらった、一関のお雑煮に欠かせない食材ですね。ちなみに佐藤さんは、芸人・ヒロシのYouTubeを見て6年ほど前からソロキャンプに目覚めたのだとか。「無骨な感じがおもしろいなぁと。ソロキャンプや同級生とのグループキャンプ、楽しいです」。
一関市大町4-29 なのはなプラザ1F
電話番号
0191-31-2201
営業時間
8:30〜18:00
定休日
元旦のみ
※もち米などのもち関連はもちろん、一般的な食材も豊富。
創業111年、結婚歴43年のご夫婦が切り盛りしている「大福屋」は地元の方や観光客、そして東京などの遠方の〝おもちファン〟にも愛される名店でした。
「大福屋」の魅力は、イートインがあるところ。いや、そんな気取ったカタカナではなく素朴な食堂という表現が似合うスペースがいい感じです。写真のもちメニューだけでなく、中華そばや天ぷらそばなどがいただけます(すべての麺にもちをプラス可能!)。残念ながら、編集部が訪れた時は麺類の提供は休業時期でしたが、クリームぜんざいを食堂でぺろりでした。もちろん、店の名に冠された「大福」も看板メニュー。大福らしい〝白色〟を出すために何回も練って何回もつく。こだわりの大福は三代受け継がれた味でもあります。
お団子は種類が豊富。写真のごまのほかに、あん、しょうゆ、ずんだ、きな粉、ごまあん、ごまきな粉、のり。東京に支店があったのなら、毎日2味ずつぐらい試しまくりたい魅惑のバリエーションでした。
最大の注目は、切り餅。大福の〝白〟とは異なり〝オフホワイト〟にこだわっているそうです。なぜなら、もち米本来の色はオフホワイトだから。ゆえに、「大福屋」の切り餅は無添加で無着色。さらに、「なるべくやわらかいうちにお客様に届けたくて」と固くなってからのほうが切りやすいのに、熟練の技でやわらかいうちに切り分けます。だからなんですね。その味の魅力に、東京からわざわざ注文を重ねるリピーターがいるそうです。
一関市大町6-31
電話番号
0191-23-3566
営業時間
9:30〜16:30
定休日
不定休(売り切れ次第閉店)
※食堂も人気。ただし、切り餅の繁忙期等は中華そばなどの食事がお休みの時期があるので、事前に確認のほど。
突然ですが、問題です。今回の特集タイトルは、さて、なんだったでしょうか? そうです。正解は「ついたり、食べたり、旅したり。」でした。雪のなかでもおもちを食べたりしながら、ふらりと足を伸ばした旅先が「厳美渓」。やっぱりここでも雪がいい塩梅で、伊達政宗も絶賛したという景観は、まるで墨絵のような静かな美しさでした。
そして〝もち旅〟は続きます。夜のもちを探して、人気店「居酒屋こまつ」へ。地元・一関の「大林製菓」が特許を持つ「ふわmochi」をメニューに使用しているそうで、写真の「もちの天ぷら」は、ちょっぴり塩をつけて食すだけで絶妙なアテに。店長の小松清隆さんいわく「大林製菓さんのおもちは本当にすごくて、冷めても固くならないんです。ふわmochi入りのメンチカツはうちでも人気なのですが、朝揚げてお弁当に入れたら昼食べてもやわらかいんです」。もち料理以外も、おいしそうなメニューしかない「居酒屋こまつ」でしたが、残念ながら夜の予約がいっぱいで取材後の来店はかなわず、でした。
岩手県一関市大町6-20
電話番号
0191-23-5744
営業時間
17:00〜22:00
定休日
水曜、日曜
※店主・小松さんのこだわりは、「なるべく地のものでなるべく手を加えずに」。編集部が訪れた時期は、あなごが絶品とのこと。築100年以上の蔵を改装した店内の雰囲気もまた絶品。
料理長・菊池将さんの笑顔も素敵すぎた「蔵大黒」。蔵ホテル一関の1階にあり、「炭火焼き牛タン」や「三陸産のお刺身」などが人気です。しかし今回の特集での注目は、なんといっても三陸節塩だしおでんのもち巾着。三陸産の鯖節と鰹節の塩だしがしみこんだおもちは、やさしい旨みが凝縮されておりました。小ぶりなサイズ感も◎。アラカルトでも、おでん5種盛りを注文して「もち巾着はマストで」でもOKです。
そして、ホテル宿泊者限定のお店でもあるのですが「蔵BAR EBISU」も趣あり、でした。
一関市大手町2-1 蔵ホテル一関1F
電話番号
0191-31-1111
営業時間
17:30〜21:30(ラストオーダー21:00)
定休日
無休
※ホテル宿泊者には、お蕎麦1杯無料サービスあり。
12月17日、休憩中のペッタンくんというキャラクターにも出会いつつ、旅は続きます。「01おもち、持ち上げ中。」の取材・撮影終わりで目指したのが「農家民宿 観樂樓」でした。かんらくろうと読みます。全国各地はおろか、パキスタンなどの異国の地からも訪れる人がひきもきらない個性的な宿。予約さえすれば「もち本膳」が堪能できると聞き、もち旅のリストに加えさせてもらったのでした。
〝つきいり〟という言葉があるそうで、つきたてのおもちをあんやくるみ(写真右上の一品)にすぐ入れて提供する昔のご馳走のことなのだとか。どうりで、やわらかくて美味なはずです。お雑煮もごぼうの味がきいていました。写真にはありませんが、畑わさびという食材もサービスで試食させてもらえたのですが、それがまぁ、もちにも酒にも絶品だったのでした。
編集部一同をもてなしてくれた佐藤静雄さんは、昭和18年生まれの80歳! 80歳には思えぬパワフルさと向上心で、どぶろく作りやフラワーガーデンも手がけています。フラワーガーデンは冬という季節的に見られなかったのですが、コツコツと作り続けてそれはもう見事な庭園となっているのと評判です。そんな佐藤さんの言葉だから響いたのがこちら。
「今日のことは今日やっといたほうがいいよ。人はあっという間に80になるから。俺だってさ、今日という日だけをみて今日を生きてきたけど、まさか80の時を迎えるなんて思わなかったからね!」
一関市藤沢町藤沢字馬ノ舟82
電話番号
0191-63-2009
定休日
なし(要予約)
※もち本膳は2日前までの予約が必要。
令和の若者はご存じなのかな? 昭和の小学校にあった像といえば二宮金次郎さんなのですが、そんな金次郎さんのいる場所=廃校となった小学校に、個性的なおもちスポットがあったのでした。「京津畑 やまあい工房」です。
「京津畑 やまあい工房」は、自治会的活動を経て、2002年に漬物製造を主として工房を設立。徐々に活動をひろげて、現在は地域の高齢者や各種団体の弁当を提供していたり、月刊LOGOSの今回の特集的におもちに限定すると、2014年全国もちサミットで「やまあいのお雑煮」がグランプリに輝くなどの実績を持つ工房なのです。
そして、ついに、とうとう……。
天ぷらを揚げたり、お弁当箱に食材を盛りつけたり、女性たちが黙々とそれぞれの仕事をこなしているなか、憧れのアレを発見したのでした。
もちつき器!です!!
一関を旅していると「一家に一台はもちつき器がある」という話を何度か聞き、関西でいうたこ焼き器みたいなことが本当にあるのかなぁと思っていたら、ホームセンターで販売しているのを見つけ(しかも3種類も売っていた)、旅のさなかに一度はこの目で見たかったのでした。そんなもちつき器が我が眼前に……。あぁ、感無量です。
プルプルと洗濯機の脱水時のように震える自動もちつき器で作られるおもちはなんだかとってもかわいいのでした。そして、先ほどの緑の食材が、工房の人たちが摘んだこの土地のよもぎで、冷凍保存しておき、1年中、よもぎ大福を提供できるよう工夫しているのだとか。そんな手作りのよもぎ大福は、甘さひかえめの粒あんとのハーモニーが、とってもナイスなのでした。
一関市大東町中川字上ノ山59-2
電話番号
0191-74-4888
営業時間
8:00〜14:00
定休日
木曜
※よもぎ大福の工房での購入は要相談。
※よもぎ大福は「道の駅かわさき ふれあいドンと館」でも購入可能。
一関って、けっこう広いです。そんなことを思いながら、やまあい工房から、かなりの雪のなかを車を走らせて目指したのが「熊谷屋菓子店」でした。おばあちゃんがひとりでやっている小さなお店なのですが、くるんと小ぶりに包まれたごま大福とずんだ餅が、超個性的で超美味。お土産にも最高です。レトロの雰囲気なお店も印象的でした。
一関市千厩町千厩字町148
電話番号
0191-52-2488
営業時間
9:30〜17:30
定休日
不定休
さてさて、旅のラストはこちらと決めていました。一関もち食推進会議会長の佐藤晄僖さんを訪ねるためです。佐藤さんは日本酒やクラフトビールを手がけ、レストランやカフェの運営、さらには博物館まで所有している「世嬉の一」の相談役も務めているとのこと。「果報餅」という岩手県南部に伝わる縁起のいいおもちについても教えてもらう予定です。
気がつけば、激しかった雪はおさまってきました。
こちらが「果報餅」です。その由来は、弘法大師が子供たちのために考案した果報団子。昔は家宝団子に萩の小枝を入れておき、それが当たった人には幸運が訪れると伝えられていたそうです。写真の「果報餅」にも9個のうちの1つだけに〝当たり〟の小枝が入っているんですって。
今回の旅の同行者はワタクシ唐澤とLOGOS寺園さんとカメラ関氏の3人。ジャンケンして3個ずつにわけて、誰に幸運が訪れるか試してみました。
佐藤会長には、一関のもち文化について教えてもらいました。伊達藩の時代から、米どころであったので、もち文化が推奨されていたこと。もち以外のさまざまな食材に恵まれ、もちをいかす知恵が育まれていたこと。その結果、いまでは320ものおもちの食べ方があると言われているんですって。会長がこんなことも教えてくれました。
「意外だったのは、外国の方の反応でした。たしかイタリアの方だったと記憶しているのですが、イカの塩辛をからめたおもちを『これはお酒にあいますね!』とものすごく喜んでくださって。外国の方でもおもちを好きになってくれるんだなぁとうれしかったですね。平成22年にもち食推進会議というものを作ったのですが、今後は、若い人たちのやり方で一関のお餅文化を後世に伝えていってほしいです」
さてさて、最後に気になる果報者の発表です。その人物こそ、あんこのお椀を選んだカメラマン関暁さん。おめでとうございます! おめでとうついでに、なぜか帰りの新幹線でビールをおごってくれたあなたのおかげで我々も果報者でした。
おもちとやさしい人でいっぱいの街、一関。「ついたり、食べたり、旅したり。」な特集は、はじまりから終わりまで白い色のイメージだったのでした。
一関市田村町5-42
電話番号
0191-21-5566
営業時間
[ランチ]11:00〜15:00[ディナー]お休み中
定休日
火曜、水曜