01明峯牧夫さん | 料理人
そっと本棚にしのばせておいて
西荻窪の人気料理店「たべごと屋のらぼう」の料理人で店主である明峯さん。近郊の生産農家の畑から、毎朝直接仕入れる採れたての野菜を使って作る、季節に寄り添った料理が人気です。
「まずは『うまれてきてくれてありがとう』です。私の父、つまり娘のおじいちゃんは怖い頑固オヤジなのですが、この本は娘が生まれたときにそんな父がプレゼントしてくれた非常に思い入れが強い本です。娘が生まれたのが2011年5月。つまり東北の震災直後で、正直暗いニュースばかりが続くどんよりとした空気の真っ只中でした。本の内容は「どんな命でも、うまれてきてくれてありがとう」という気持ちが伝わるような、命を全肯定するような物語になっています。娘が3歳になる頃まで読み聞かせをしていたのですが、9歳になった今でも娘はこの本のことを覚えています。きっと、まだぼんやり世界を見ている時期に、感覚的に自分を肯定できるようないいきっかけになったのだと思います。育児って「ここにいていいんだよ」って思わせてあげることが大事だと思うんですよね。それでも親の立場からすれば照れ臭くて伝えきれないこともありますから、この本を通じて伝えられたのはよかったと思っています。」
「次の本は『チェクポ』です。これは韓国の本なんですけど、1970年代の貧しい農村地が舞台で、貧しいオギと裕福なダヒという小さなふたりの女の子の物語です。継ぎはぎで作られたチェクポという韓国の風呂敷みたいなものをオギのおばあちゃんが作ってくれたのですが、裕福なダヒにからかわれ、ふたりは大喧嘩。最後はチェクポがきっかけで仲直りするというようなお話です。この本は2019年に発売された本なのですが、娘と書店に行ったときに娘が自分で欲しいと選んだ本なんです。まず絵が気に入ったのだと思いますが、すべてその場で読んで、読み終わっても買ってほしいとおねだりしてきたほど気に入っていました。娘も小学校に入って友達との関係性がうまれてきたり、物も増えてきたり、いろんなことを感じ、考える年頃だと思います。娘がこれを読んでどう受け取ったかはわかりませんが、本当の美しさや大切なことってなんだろうかとこの本のおかげで自発的に考えてくれたのかもしれません。」
「最後は『はてしない物語』です。私の母が著者のエンデが好きで、私が小さいころから家に置いてありました。母にすすめられたわけではありませんが12歳の頃に読んで、この本の中の主人公と同じように、ものすごくのめり込んだのを覚えています。この装丁にも憧れましたし、その何年後かに映画のネバーエンディングストーリーにもなって映画館で見たのも覚えてます。それでもね、久しぶりに読み返してみたら、あんなにのめり込んだのに全然覚えてないんです(笑)。でも、後にも先にもこんなにのめりこんだ経験って貴重で、同じように娘にも経験してもらいたいです。かといって、娘に押し付けたりはせず、そっと本棚にしのばせておいて、自分で気が付いて読んでくれたらなと思います。のめり込んだ経験があるのとないのとでは、違うと思うんですよね。想像力が豊かなうちに、そういう経験ができることを準備しておいてあげるというのが親の務めなのかなと思うこともありますね。」
2020年10月、西荻窪「たべどこ屋のらぼう」にて。
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Bamboo ゆらめき・かぐやランタン”
02クリス智子さん | ラジオパーソナリティ "簡単"か”むずかしい"かは関係ない
J-WAVE「GOOD NEIGHBORS」、「CREADIO」でパーソナリティを務めるクリスさん。ラジオの他、TVナレーション、雑誌執筆など、各方面で活躍をされています。 インテリア、アート、ものづくり、字を書くこと、運転、観劇、料理など幅広い趣味をお持ちです。
「一昨年のクリスマスに息子が建築家になりたいと言っていたので買ってあげた『世界を変えた建物』という本です。この本は人類が最初につくった建築から今にいたるまで、どんな住みかを作ってきたかが書いてある本です。いろんな暮らしをしている人を知ることができるし、絵と詳しい情報が満載で、読み応えたっぷりの一冊です。8歳にはまだむずかしい部分があると思いますけど、子供ってわりと“簡単”か“むずかしい”かは関係なくて、見たいところだけを読むし、柔軟だし、よく覚えてますよね。息子は絵を描くのも好きなので、トレーシングペーパーをつかってこの本をなぞっておもしろがっていました。とくに私が好きなのは建築家の“フンデルトヴァッサー”さんのページで、大阪にも建築があるんですけど、環境問題などを考えながらつくられる建築家さんなんです。驚くような発想で、なんとなくある建築の概念をなくして自由に感じ取れるところがいいと思います。」
「つぎは『たいせつな わすれもの』です。森村泰昌さんがヨコハマトリエンナーレ2014のときにつくられた本で、森村さんらしい芸術アートの視点がわかります。私がアートを好きな理由って、人は生きていると、住んでいるところや見ているもので価値観がつくられていくと思います。それも大事だけれど、たえずそれをシャッフルして生きていきたいと思うんです。芯は強くあってほしいけれど、いろんなものにちゃんと耳を傾ける。つまり、聴く力とか吸収する力とか、そういう余裕を自分のなかにもてる人になってほしいなと息子に思います。するとやっぱりアートというのは言葉じゃないところでそれをさせてくれる。これは好き嫌いという話とはちょっと違って、どんなものでも見て、苦手だなって思ったことでも“なんで苦手と思ったか”を一度考える人になってほしい。もちろん、好きは好きで。ちゃんと自分から能動的にその理由を手繰り寄せないとわからなくなってしまいますよね。なんでもかんでも教えてもらうのではなくて、“なんでかな?”と思う力がつくと思います。」
「最後は『ぺぱぷんたす』です。3年前から作り始められたシリーズの本で、絵本作家や小説家など、いろんな方がたずさわっていて素晴らしいのですが、なによりいいのが、この本は切ってもいい、貼ってもいい、というような内容ばかりなんです。切ってラーメンを作りましょう、とか、コインで削ってあそぶページがあったりとか、紙って切るとか折るとかクシャクシャにするとか、そういう喜びがあるじゃないですか。目から吸収するだけではなく、音、手触り、紙の匂いなど、本と戯れる喜びが詰まっているんです。対象年齢が4歳から100歳までっていうキャッチフレーズなのもおもしろいところで、大人もなかなか本を破る機会なんてないですからね。ある時から“本はみんなのもの、大事に扱いましょう“となっていったけれど、本当はどんな風に使っても自由なものだと、この本のアートディレクターである祖父江慎さんがおっしゃっていました。本来の本の喜びって“自分のもの“になる感覚だったりもすると思うんですよね。」
2020年10月21日、東京都港区「さくら坂公園」にて。
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タッチスイッチ・デスクセンターライト”
03岸本幸孝さん | ヘアデザイナー 感情
美容師の専門学校を卒業した後、東京で勤務。26歳でロンドンに渡って美容師として勤め、30歳で東京の西小山の商店街に自分の店舗を持つ。同年に結婚。2020年現在、それから10年が経ちました。
「最初の本は浅田次郎さんの『闇の花道』です。年老いた老夜盗の松蔵が昔の泥棒達の話を牢屋の中で始めるんですが、囚人だけでなく看守や刑事や署長までやって来て話を聞き入るんです。登場人物がとにかくカッコいいんですよね。江戸っ子の粋な人たちで。またその盗人たちが悪いやつからは盗まない。まぁ、ルパン三世のような盗人ですね。そんな話を松蔵がしながら聞いている人たちを講じていくんです。僕が浅田次郎さんと出会ったのは『プリズンホテル』を読んだのがきっかけで、すぐに大好きになりました。この『闇の花道』は1巻完結型ではあるのですが、1~5巻まであるシリーズもので、10年前ぐらいに1巻を読んですぐにどハマりしました。何巻目かで号泣するほど感動してしまい、浅田次郎さんにファンレターを出したのを今でも覚えています。それぐらいどハマりしました。学ぶものがとても多く、素晴らしい本です。息子が高校生ぐらいになったら読んでほしい本ですね。」
「つぎの『アルケミスト 夢を旅した少年』はちょっと流行りの“引き寄せの法則”みたいな。直感を信じていればいいことがあるよ、みたいな。ざっくりいうとそんな感じですね(笑)。ぼくはロンドンで仕事をしてたんですけど、戻ってくる時に不動産屋さんにお店の物件を探し始めてもらったんですね。そしたらすぐに西小山の商店街の中のこの場所が見つかったんです。見にきた瞬間に“やる”って決めて、2ヶ月後にはオープンさせました。そもそもロンドンに行ったのもノリで、当時はパンクロックが好きだったから、向こうに行けばセックスピストルズに会えるかな? みたいな、ただそれだけで行っちゃいました(笑)。自分がやりたいことをやったほうがうまくいくっていうのは実感していて、自分のやってきたことを肯定してくれたような本でした。点と点がつながって線になっていく感じというか。息子にもそれは感じてもらえるような、後悔をしないような生き方をしてほしいので、この本を贈りたいですね。」
「最後ですが、『ONE PIECE』って知ってます?(笑)。 ひとりの麦わら帽子をかぶった少年が、仲間を増やしていきながら海賊王を目指していく、そう、あれです! あのワンピース! その44巻です。この巻では、ずっと最初から冒険を共にしてきた相棒的な船“ゴーイングメリーゴー”とお別れしなくてはならない巻なのですが、もう、昨晩も読んで泣いてました。号泣、号泣、ずっと号泣ですよ。漫画は昔から大好きで、ワンピースからはやっぱり“友情”を学びましたね。小さい頃、親が転勤族だったので、北海道で生まれてから、静岡、岡山、神奈川、東京、大分、山口と引越しを重ねてきました。友達と仲良くなっては離れ、仲良くなっては離れの繰り返しでした。なんでしょう、ぼく自身が友情に飢えてたのかな? ぼく自身が人の愛に飢えていたんだと思います(笑)。ぼくの息子にはちょっとだけ漫画はまだ早いですが、もうすこし大きくなったら、読ませたいですね。」
2020年10月22日、西小山の美容室「MAHRO」にて。
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リモコンユニティーランタン(3pcs)”
04立川志の八さん | 落語家 子供の想像力には敵いませんから
1974年、神奈川県横浜市生まれ。26歳で立川志の輔に入門。前座名「志の八」。2009年二ツ目に昇進し、2017年には師匠にいただいた名前のまま「志の八」で真打昇進を果す。現在では地元横浜や下北沢を中心に定例会を開催している立川志の八さんです。
「最初の本は『君たちはどう生きるか』なんですけど。コペルくんという小学生がおじさんに疑問や発見したことを伝えて、おじさんは大人の視点で答えていくのだけれど、コペルくんがとても頭のいい、素敵な視点をもった子なんだよね。例えば、ビルから下を見ると人や車の行き交う景色が見えるよね。そんな当たり前の景色を見て、ふとその人たち一人一人にドラマがあるんだと気付いて。その途端にただの景色に”血が通ってくる”というか。そういう発見をする子なんです。今、SNSで簡単に人を傷つけるじゃない? その人はどんな生活をしていて、その先にどんな大切な人がいるのか。そういう“想像力”が必要なんじゃないかと思うんですよね。この本はそういうことを考えさせてくれる本なんです。ふとした興味からはじまってもっと知りたくなって、更には得た知識をどう使うのか。その知識でやりたいことをやるならば、もっと勉強しなきゃいけない。だから勉強って大事なんだよ。そういうこともこの本は教えてくれるんです。」
「次の『ものがたりの家』は、吉田誠治さんが物語に出てきそうなユニークな建築物と、その設定を細かく書いている本で、見ているだけで楽しくなる本です。例えば、“悪戯好きの橋塔守”というページでは、橋塔に盗賊まがいな奴が住み着いて、馬車が通ったら、上から紐で吊るして荷物をとってやろうとか、そういうユーモアに溢れる設定と、その建築物の絵が描かれている本です。この本は子供に読んでほしいというより、子供と読みたい本ですね。この本を読んで子供がどう思うのか、どう発想するかを隣で聞いてみたい。大人は制約をかけちゃうじゃないですか。子供のほうがよっぽど柔軟で、想像力は敵いませんから。こういうユニークな考えが自然と出てくると思うんです。ツリーハウスとかもね、いまだに憧れるじゃないですか。あれ、実際に住んでみたらとっても住みにくいと思うんです。けどやっぱり夢があるというか。そんな憧れみたいなものがたくさんつまっている一冊です。」
「最後は『クサボケちゃん』です。この本はだれしもがする恋の本です。恋をした人が読んだら、きっとあのフワフワ感ドキドキ感を思い出させてくれると思います。失恋する切なさも。きっとこの本は同じ人でも読む年代で受け取り方が変わるんじゃないかな。木に咲いたクサボケちゃんが蝶に恋をするんですけど、ある意味恋は実るんですが、でも恋が実るうれしさだけじゃなく、儚さとか、命とは? みたいなことまで考えちゃうお話なんです。なので読み終わったときにほっこりする人もいると思うし、切なくなる人もいると思います。作者自身が“あなたはどう思いますか?”と投げかけているところもまたおもしろさのひとつかなと。僕の娘がいま恋をしているかはわかりませんけど、もしもしていなければ、そんな“今”読んだ感想と、“未来”に読んだ感想はちがうと思います。絵が女の子向けに見えるかもしれないですけど、全然そんなことはなくて、男の子でも楽しめる本なので、たくさんの子に読んでもらいたいですね。」
2020年10月22日、下北沢の劇場「楽園」にて。
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ロジックランタン”
05黒田育世さん | ダンサー/振付家 全部の言葉が踊りだしそう
6歳よりクラシックバレエを始め、1997年渡英、コンテンポラリーダンスを学び、2002年BATIKを設立。身体を極限まで追いつめる過激でダイナミックな振付は、踊りが持つ本来的な衝動と結びつき、ジャンルを超えて支持され、多数の賞を受賞。演出家・野田秀樹さんの舞台で振付なども行っています。
「はじめは『あなはほるもの おっこちるもの』です。 “マッシュ・ポテトは だれでも すきなだけ たべられるもの”という言葉からこの本ははじまります。とにかく、ぜんぶの言葉が踊り出しそうな本で、絵は『かいじゅうたちのいるところ』のモーリス・センダックさんなのでとってもかわいいし、大好きな一冊です。私がとくに好きなページは“あしの おやゆびは ダンスを するため ついてるの”。もう、これ、最高ですよね。目的を押し付けられてしまう前の発想というか、作業というものに落っこちる前の発想というのが、この本にはびっしりつまっています。“目的のない身体”とは、つまりは“ダンス”です。“みみは ぴくぴく うごかすもの”とか、大人になると“耳は聞くもの”になっちゃうじゃないですか。ダンスって目的を剥ぎ取られたもので、A地点からB地点に行くのに歩行か走る行為で十分なところを、踊る。だから目的なんてないんです。この本も目的の話をしていないという意味では“ダンス”なんです。」
「二冊目は『殺人者の涙』です。私はそこまで本をたくさん読むものではないのですが、この本は徹夜で読んでしまった本です。とある殺人者が子供と出会い、子供が音楽と出会っていくというお話で、人の心が音楽によって開いていきます。心が開くというのはいいことのようにも思えますが、主人公にとっては開かなかったらそのまま感じずに済んだことがあったりします。私も“いい人はいい人、悪者は悪者”という“善悪”の価値観を知らぬまに決めつけて生きているように感じます。自分を悪者の犠牲者のように感じたりとかね。この本を読むと、いろんな人の立場になってみることができると思います。主人公は殺人者ですが、そんな殺人者に感情移入しざるを得ないシーンがでてきます。人って、どうしても“自分がどういう立場で生きているのか”っていうのを考えずに生きていくと思うんですけど、ほんのちょっとしたことで自分が加害者になることがある。この本を読むと、そんな想像力をもって考えられるような人になれるかもしれません。」
「三冊目は『鳥の仏教』です。この本は高僧の人々にしか理解されていなかったチベット仏教を農民や牧畜民のような大衆に教えを理解できるように、まるで鳥の言葉のように鳴き声と挿絵を上手に混ぜてつくられた本です。作者は不明で様々な国で翻訳されているところ中沢新一さんが日本語に訳されました。中沢新一さんとは過去に対談したことがありまして、その時に本が読むのが苦手だという相談をしたんですね。そしたら『鳥の仏教』なら読みやすいからとおすすめしてくださって読んでみました。そしたら、とてもおもしろくて、私のダンス作品の題材にもしました。結局は“説教”なのですが、それを“あどけなさ”でカバーしているところがこの本の魅力で、人間って“わかりたい”という欲求が必ずあるじゃないですか、だから、別の考え方で存在していると理解する、つまり、“理解できないものがある”ってことを受け入れられないんですよね。この本ではそれを“理解する必要がない”“わかることが一番大切なことではない“と言ってくれています。」
2020年10月21日、自宅の「ダンススタジオ」にて。
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Bamboo モダーンランタン”
06松本じろさん | ミュージシャン レコードのように何回も何回も
奈良県出身で幼い頃からピアノとギターをはじめ、読書をするよりも作曲をするほうが早かったという松本じろさん。作曲をしてきた1000曲以上もの曲のなかには、LOGOS MUSICも含まれています。
「まず『小川未明童話集』ですね。童話集なのでいろいろと入ってますけど、『赤いろうそくと人魚』とか『野ばら』は子供の時に読んでました。童話集というのは読んでなかったので最近読みましたが、これは素晴らしいですよ。中南米文学に通づるところがあるというか、落ちがとんでもないところにいくんです。ふわふわした夢のような風景というか。まだ読んでない人はこれから小川未明を知れると思ったらうらやましい。僕なんて何回も何回も読んでるから。新しい発見とかそんなのどうでもよくて、レコードのようにひたすら何回も何回も。娘にこれを読み聞かせるとだいたい途中で寝るんですけど、それでもあくる日“これ読んで”と言ってこの本を持ってきます。童話集から学ぶことはとくにないかもしれませんが、ただ日々を過ごしていて感じるのは今の世の中、言葉が汚い。文章能力が低い。時代背景もあるでしょうが、この童話集は自分の母親に対する口のききかたにしろ、友達にしろ、とても言い回しが綺麗で、香りの立ち方が違うんです。こういうのは娘に教えてあげたいなぁと思いますね。」
「『ジャズ・カントリー』は高校のときに先生が教えてくれた本なんです。青春のときだから青春小説を教えてくれただけだとは思うんですけど。子供が音楽と出会っていく、音楽が自分の中に広がっていく。そんな話です。中学生ぐらいの子供たちに読んでほしいかな。これを読んでなにかを感じてほしいとかはないんです。自分がこの本を読んで感銘を受けただけなんですけど、本って、言葉だったり、たったひとつの文章で膨らんでいくでしょ? 心の中で膨らんでいくっていう、それが大切なんです。この『ジャズ・カントリー』があったから今の自分がいるとも言えるけれど、それよりも、この本があったから今も本が好きということはあります。なぜ自分が音楽が好きなのかってことも、この本のおかげでぼんやりわかっていたりとか。とにかく“膨らんでいく感覚“というのが好きでして、それを味わえる一冊ですね。
「この本も膨らんでいく感覚の本です。『ほんとうの自分を求めて』。タイトルは損してると思うなぁ。“べつに求めてねぇし”ってなるよね(笑)。ただ、著者の姫田忠義さんという方が父の知り合いだったんです。民俗映画をつくっていらっしゃる方で。宮本常一さんという、民俗学者のお弟子さんだったんですけど、その方がこの本をくださって、家にあったから読んだ、というだけでした。どうやって自分が日本人に生まれて、日本人に興味をもっていくかという、子供のときからの生い立ちを淡々と描いていらっしゃっている本です。どうやって人は生きてきたのだろうとか、どうやって日本人になったのだろうという小さい頃からの姫田さんの疑問を書かれていますね。こういう本は胸の風船がまだまだ膨らませられる中学生の頃に読んでほしいんですよね。」
2020年10月21日、都内の「自宅」にて。
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Bamboo コテージランタン”
07小池花恵さん | プロデューサー 生きていくチカラ
吉本興業や糸井重里さん主宰の「ほぼ日」でマネージャーとして勤め、 2015年に料理家の山田英季さんとともに (株)and recipeを立ち上げる。「ごはんと旅は人をつなぐ。」をテーマに幅広く活動されています
「まず、二冊いっぺんに紹介させてください。星野道夫さんの『旅をする木』と石川直樹さんの『全ての装備を知恵に置き換えること』です。おふたりとも冒険家なのですが、私たちの知らない景色を知っているふたりなんですよね。山に登ったり、アラスカに行ったり、冒険して写真を撮っている日々のことを書かれている本ですけど、読んでいると、風の通る様子とか、動物たちが動く様子とか、写真はないんですけど、文章を読んでいるだけで頭に浮かび上がってくるんです。じつは私、悩んでいる友人がいたら、この本たちをプレゼントしているんです。仕事が忙しいときや人間関係で悩んでいるときとか、辛いときって自分が見えている世界が狭くなっていくじゃないですか。この本たちを読むと、もっとちがう世界で生きる人とか生き物とか、べつの世界に物語がある感覚とか、なんだか自分をそこへ飛ばしてくれる本なんです。」
「最近の子供たちって生まれたときからスマホがあって、うちの息子なんてとくに全部YouTube検索なんです。だから私よりも知っていることがたくさんあるし、なんでも調べたらでてくる世界にいるんですけど、この本ではどうやって明日のご飯の獲物を獲ってこようかとか、なんだか“人が生きるチカラの根本”というか、そういうのってもしかしたら一人っきりになったときに生まれるのかなって思います。読むと旅したくなる本なので、息子が中学生か高校生になったときにこの本を渡してあげたいと思ってます。旅に行って、乗ったことがない電車に乗って、食べたことのない料理を食べて、いろんなことを感じてくれたらいいなと。ちょっと危険な旅でも、本当に行ってみたい場所であるなら、行った方がいいと思うんです。私、勉強しなさいとかあんまり言わないんですけど、生きていくチカラはちゃんともっている人でいてほしくて。旅に行くとたくさん失敗すると思うんですけど、その都度どうするかを考えることが旅の醍醐味であり、学ぶことが大きいと思うんですよね。」
「三冊目は谷川俊太郎さんの『バウムクーヘン』です。私も小さい頃に谷川さんの本に出会って、言葉のおもしろさを教わったんですけど、この本は知り合いの編集者さんがつくっていて、2018年に出版されたものです。表紙の装画はミッフィーちゃんの絵を描いていらっしゃるディック・ブルーナさんで、装丁がかわいいなと思って手にしたのがきっかけでした。とくに好きな詩が“ひとり”で、ぜひ読んでほしいんですけど、その次のページが“ふたり”なんです。息子も中学生か高校生になったら、“本当にやりたいことは”とか“自分は何者なのか”みたいな悩みを抱えて、たくさん考え出すと思うんですけど、そのときに生きる指南をしてくれる言葉が谷川さんの本にはたくさん詰まっていると思うので、悩んだときにはこの本を読んでほしいなと思います。きっとそういう時期に伝えたいことって、話しではなかなか伝わらないと思っていて、こういう本とか映画とか、そういうものから考え始めると思うので、そっと置いておいてあげたい一冊です。」
2020年10月19日、代々木上原の「事務所」にて。
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アクションスイッチ・テトライト”
08ホセ・フランキーさん | イラスレーター/画家 小3の娘は、虫歯がありません。
武蔵野美術大学油絵学科卒業後、リリー・フランキーさんのアシスタントを経て2000年に独立。書籍、広告、ポスター、パッケージなどのジャンルで、和から洋、古典から現代まで幅広くイラストのお仕事をされています。イラスト以外で絵画の制作もしています。
「最初は『はははのはなし』です。子供の絵本って基本的には論理立て説明していく本って少ないじゃないですか。この本は“歯”の話なんですけど、どうして虫歯になるのか。なぜ虫歯になるといけないのか。虫歯だとどうなってしまうのか。健康な歯だとどんないいことがあるのかを、わかりやすく論理立てて描いてくれています。娘が保育園のときから読み聞かせていて、わかりずらいかなと思いきや、かわいい絵と笑いやユーモアがたくさん含まれているおかげなのか、くいつきもよく、すっと理解できているようなんです。その証拠に、この本を読んでからちゃんと歯を磨くようになって、小3の娘は虫歯になったことがないんです。この本のおかげでっていうと大袈裟かもしれませんが、健康に大きく役立っているのは間違いないと思います。この本の何がすごいって、この著者の加古里子さんという方が工学博士なんですが、にもかかわらず絵本作家として文章も絵も書かれているという、素晴らしいセンスの持ち主なんです。」
「つぎは『いってらっしゃーい いってきまーす』です。この本の登場人物の設定が、両親が共働きで、旦那のほうは絵描き。子供は保育園に通っているという、我が家とまったく同じ設定に共感してしまいました。父親が保育園に子供を送って、子供が保育園で過ごし、母親が迎えに行って家に帰るというなんのへんてつもない日常のお話ではあるのですが、とても不思議な魅力を感じながら子供に読んであげている一冊です。絵も素晴らしくて、作家さんは林明子さんという全国の美術館などで展覧会をされている巨匠です。私が言うのもおこがましいのですが、線と色のセンスがたまりません。特に“線”が素晴らしく、流れるような軽快で、さっとなにげなく描いているように見えますが、無駄がなくものすごい上手さを感じます。今、80年代の作品があらためて見つめなおされていますので、この絵に影響を受けている最近のイラストレーターさんは多いと思います。子供目線や引きになる構図の変化もおもしろいですし、何回読んでも飽きない本です。」
「最後は『浦島太郎』です。新・講談社の本シリーズという20巻ある本ですが、昭和11年に刊行されたものが絵が素晴らしいということで2001年に復刻されたものなんです。ストーリーは言うまでもありませんが、最初に読んだ時は古典的な日本画の画集を見ているようで1ページ1ページ釘付けになってしまいました。このシリーズの絵を描いている人がすべて日本画家さんで、紙に描いているのではなく、絵絹に岩絵の具を使用し古典的な方法で描かれているのがわかります。安土桃山時代からある手法で、仕上がりが平面的でムラがなくて滑らかです。こういう絵は絹に色が馴染みやすいからできることで、紙に塗るとムラが必ずでてしまいます。今ではなかなか見ることができなくなっているので、僕自身も資料として重宝しています。子供たちもこういう伝統的な絵に触れることは、感性の幅を広げるのに大いに役立つものだと思います。自分も絵絹でオリジナルの作品を描いているので、背景の描き方や色の使い方など勉強させてもらっています。」
2020年10月24日、展示会を開催していた「ノミガワスタジオ」にて。
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LOGOS パワーストックラウンドランタン440”
09枡田絵理奈さん | アナウンサー 答えはひとつじゃないんだよ
2008年TBSに入社し「チューボーですよ!」などのMCのほか、オリンピックやFIFAワールドカップなどのスポーツキャスターとして中継MCを担当されていた枡田さん。 2015年、結婚を機にTBSを退社し、2016年からフリーアナウンサーとして活躍されています。
現在は広島県在住。3児の母として様々な分野で活躍されている枡田さん。ひとりになれる東京への移動時間は爆睡。それでも子供たちには読み聞かせてあげるというたくましい母が選んだ3冊は
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『こんとあき』作:林 明子 出版社:福音館書店
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『質問絵本』作・絵:五味太郎 出版社:ブロンズ新社
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『ないた赤おに』作:浜田廣介 絵:いもとようこ 出版社:金の星社
「最初は『こんとあき』ですが、これはすぐに決まりました。自分が小さいときに一番好きだった本で、大好きで大好きで仕方がなく、もう何回読んだかわからないです。ぬいぐるみの“こん”と女の子の“あき”ちゃんの話で、遊びすぎちゃってほつれてしまった“こん”を直すために、おばあちゃんのところへ一緒に向かうという物語です。“こん”の健気さと可愛さが読んでいてキュンキュンしますし、“あき”が旅のなかですこし成長する様子も親として愛おしくなったりします。5歳の息子もこの本が大好きで、一緒に読んだりすると毎回同じところでハラハラしたりとかしながら楽しんでます。最近はいろんな人から物をもらったりすることも多く、物にあふれた生活をしているので、ひとつの物を大切にするような生活がなかなかできなかったりします。子供にはひとつの物にちゃんと愛着心をもって大切にするような心を、この本を読んで感じてもらえたらと思っています。」
「つぎは五味太郎さんの『質問絵本』です。もともと子供が五味さんの絵への反応が良くて、本屋さんに行った時に見つけた本なんです。例えば、女の子の絵が14人分あって、“このなかでいちばん早く結婚しそうなのは誰か? その訳は?” というような質問があって、本にはその答えは全然書いてないんです。この本を読んで、“答えはひとつじゃないんだよ”ってことが伝わったらいいなと思っています。 “この人に必要なものは?”という質問に息子から“この人の服がオシャレじゃないから笑顔になれないんだよ! ワンピースが必要だよ!”というファッション目線の答えが返ってきたのは印象的でした(笑)。この本を読んでいると、自分と他人が同じものを見ていたとしても、他人からは自分と全く違う世界が見えていることもある、ということを感じられると思います。ぜひ、ひとりで読むだけじゃなくて、何人かと一緒に読んで感じてくれたりしてもいいなと思っています。」
「最後の一冊は『ないた赤おに』です。ざっくり言うと、やさしい赤鬼がいて、人間と仲良くなりたいけれど、怖がられてしまうんです。そんなところに青鬼がやってきてある提案をします。わざと悪さをするから、赤鬼さんが自分をやっつけてくれれば赤鬼さんはヒーローになって、人間と仲良くできるだろうと。実際にそうすると、青鬼の言う通り人間と赤鬼は仲良くなれるんだけど、ふと赤鬼が青鬼に会いたくなって住みかに行くと置き手紙があるんです。今、仲良くしているところを見られたら、人間がまた不信に思ってしまうから、僕は旅に出るね…。というようなすごく切なくていいお話なんです。子供も“鬼=悪もの”という先入観があると思うので、まずは鬼だからといって決めつけちゃいけないってところから感じてくれたらなと思います。いずれは人間にも同じことがいえるので、外見だけではなく、中身まで見て本質をつかんでくれたらと思います。そして、“自分さえよければ”ではない青鬼さんみたいなやさしさをもった子になってほしいです。」
2020年10月25日、イベント会場の「控え室」にて。
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クランクチャージランタン(スマホ対応)”
10吉田昌平さん | アートディレクター こんな本読んでる子、いいなって思っちゃうから(笑)
2016年に「白い立体」として独立。2019年度にはマガジンハウス『POPEYE』のアートディレクターも務め、カタログ・書籍のデザインや展覧会ビジュアルを中心に活躍されています。そのかたわら、アーティストとしてコラージュ作品も数多く制作発表されています。
生後半年の娘さんをお持ちの吉田さん。デザイナーというよりも、シンプルに自分が好きな本、若い頃に出会ってたらなという3冊を選んでくださいました。
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『日本国憲法』編集:松本 弦人 出版社:TAC出版
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『満月変』著者:吉田カツ 出版社:ミリオン出版
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『僕といっしょ(1)』著者:古谷 実 出版社:講談社
「ちょっと物心ついたころに読んでくれたらと思うんですけど、まずは『日本国憲法』という本で、右ページに日本国憲法と解説が書いてあって、左ページにすこし関係するような写真や漫画やアート作品が載っている本です。この本は1982年にベストセラーになった『日本国憲法』という本を21世紀になった今、アップデートしたらどうなるかと試み、再編集されたものです。日本国憲法なんてなかなか触れる機会はないと思うので、おもしろい本だと思います。解説が単語に対しても書いてあるのが親切でいいところです。とはいいつつ、じつは僕も全部読んではいなくて(笑)。たまにパラパラと読む程度なんですが、パラパラ読むのが楽しい本なんです。この左と右のページのギャップがおもしろいし、デザインもいいし。日本にいるくせに日本国憲法のことはほとんど知らないので、興味が湧きづらいところを、左ページが補っている構成がまたよいですよね。これをおもしろいって思える子に育ってくれたらいいなと思います。」
「もう亡くなられた方なんですが、吉田カツさんというイラストレーターの『満月変』です。これは正直、内容どうこうよりもデザインがとにかく好きなんです。“目次”からたまらなく好き。吉田カツさんはフジテレビのロゴマークや、ANAの機内誌『翼の王国』の表紙、映画『マルサの女2』のメインビジュアルなど、様々な大作を描かれている方です。この本の内容としては、そんな吉田カツさんのイラストに対して、繰上和美さんや蜷川幸雄さんなど、いろんな方々が執筆をしていて、まぁ、とにかくカッコいいんです。大人な内容ですし、子供が興味あるかはわからないし、べつに自分がデザインしたわけではないので、もう、シンプルに僕が好きな本です。娘は読んでも何も思わないかもしれませんね。だから、“お父さんはこういう本が好きだよ!”って娘に伝わったらいいなと思います(笑)。」
「最後は『僕といっしょ』です。『稲中卓球部』と同じ作者の古谷実さんの漫画ですね。僕はこの本を中学校の時に読んで、なぜか今でも記憶に残ってるんです。冒頭からちょっと寂しくて、捨てられた二人の子供がなけなしのお金で上京して、いろんな人に会っていく話なんですけどね。ギャグ漫画なのでくだらないんですが、くださらないなりにも人生とはなにかを考えさせられたり、心が痛くなったり、感動したりする話なんです。まぁ、真面目なトーンで語らせてもらってますけど、そんなに感動するわけではありません(笑)。でも、こういうギャク漫画も読む子に育ってほしいです。だって、こんな本読んでる子、いいなって思っちゃうから(笑)。デザイナーにしたいわけでもないですが、子供にはいろんな世界があるよっていうのは見せてあげたいですね。でも、僕の選んだ三冊は“我が子に”だから選べているかもです。よその子にはおすすめできないかもな(笑)。」
2020年10月19日、北参道の「事務所」にて。
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リモコンブロックライト(4pcs)”
11茅野由紀さん | ブックハウスカフェ店長 絵本って幼馴染みたいなもの
1万冊以上もの絵本を中心とした子供向けの本が揃う“こどもの本専門店「ブックハウスカフェ」”の店長を務める茅野さん。本の扉をめくる瞬間が至福の時で、本の話をし始めると止まりません。手作り絵本のマルシェなど、楽しいことを今も計画していらっしゃるとか。
「一冊目は『まりーちゃんとひつじ』です。初版が1956年のこの本は、長く愛されている本です。“まりーちゃん”という女の子と“ぱたぽん”という羊のお話で、子どもらしく無邪気なまりーちゃんと、優しいぱたぽん。この二人の掛け合いに心温まります。社会的なテーマも見え隠れして、なかなか読み応えある一冊です。私の子どもたちは、お散歩中にふと“はらっぱには、ひなぎくの はなが きれい きれい、おひさまが いちんち きらきら。”なんて物語中のフレーズを口にしたりします。私も子供たちがこの絵本を楽しんで読んでいるんだと感じてうれしくなります。この絵本は、私の成長を見守ってくれた得がたい一冊でして、3歳の時と、5歳や10歳の時とは読み取り方が異なることに自分で気がつきました。自分が成長し変化しているのを知る身長計みたいで、絵本が小さいころから読める媒体だからこそできる技ですね。小さなころに心通わせた絵本は大きくなっても寄り添ってくれる幼馴染のようなものですから、ぜひ、小さいうちにたくさんの幼馴染を見つけてほしいと思っています。」
「つぎは『ブルッキーのひつじ』ですね。2017年に77歳でお亡くなりになったアメリカの作家、ゴフスタインさんの本です。線画が非常に印象的で、素朴というか、余計なものがないというか、究極のシンプルなのです。訳は谷川俊太郎さんで、この絵にぴったり合った素朴で飾らない言葉であふれています。“みみのうしろを かいてやる”というページが私はとくに好きなんです! 子どもたちが赤ちゃんのころから一緒に読んでいますが、子どもに安心して読める温かさにあふれた一冊です。絵本を描きたい人って思いが強すぎて“つい描きたくなってしまう”のではないかと思うんです。言葉も修飾し、絵も盛って。だからゴフスタインの絵や文を見るとそのシンプル加減に驚き感動します。彼女は“描かないことによって表す”天才です。この絵本の白い部分が、どんなに想像力を掻き立ててくれることか。この絵本は私の大のお気に入りで、オススメしすぎているので、私のことを知る人は“またか”と思ってしまう一冊かもしれません(笑)。」
「最後は『わすれもの』です。こちらは2017年刊行の絵本です。作者の豊福まきこさんはこちらがデビュー作ですが、素晴らしい画力で、表紙から引き込まれ、一目惚れした一冊です。公園のベンチに忘れられてしまった羊のぬいぐるみが、カラスにつっつかれたり、雨に濡れたりしながら持ち主を待つというお話で、日が落ちて暗くなり、ぬいぐるみの羊の心の不安が増していく表現が見事なほど、持ち主の元に無事に戻り幸せが戻るラストがより感動的に伝わってきます。読んでいる子どもたちの顔が最後に晴れ晴れするのが、見ていて微笑ましいんです! 詩的で説明しすぎない言葉と、言葉で表さない部分を補う絵とが絶妙に奏でるハーモニー。絵本は作と絵を別の作家が描くことが多いなか、この絵本は作と絵が同じ作家さんだからこそ成しえる気持ちのよい世界観だと思います。」
2020年10月26日、神保町「ブックハウスカフェ」にて。
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12倉田貴司さん | モックアップエンジニア 親の影響って大きいから
1985年生まれ、神奈川県藤沢市出身。東京都立城東職業能力開発センター台東分校製くつ科卒業後、フィレンツェへの留学を経て、2005年に製品の試作品や模型を製作する企業に入社。現在はエンジニアとして白物家電などのモックアップを製作しています。2014年に結婚。
「最初は『はらぺこあおむし』です。誰もが通る本なんじゃないかなとは思うんですけど、やっぱり子供は大好きですね。あおむしが蝶々になるっていう成長をシンプルに描いている話ではあるけれど、この薄い一冊にいろんなことが集約されているなと思います。曜日も入っているし、数字の数え方も入っているし、太陽や月が出てきたり、食べ物がでてくるし、食べ過ぎたらお腹が痛くなってしまったり。本に穴が空いているのも好きなのかな? 途中にでてくる食べ物の名前もちゃんと覚えてますしね。この本でうちの子は太陽が熱いってことも覚えました。学ぶものが多い素晴らしい一冊ですね。」
「二冊目は『ちいさなあなたへ』です。この本は結婚式の日に妻のお母さんが妻に贈ってくれた本です。最後のページにはお母さんから直筆のメッセージが書いてあって、泣いちゃいますよね。母親ってこういう気持ちだったのかなって感じさせられた内容の本でした。冒頭に“ちいさな ゆびを かぞえ”ってところがあるんですけど、子供が生まれた時やっぱり同じことをしたんですよね。子供が生まれてからの日を思い出すような物語なんですけど、妻はこの本をもらったときの気持ちと、自分の子に渡す時の気持ちはまったく違うと思うんです。それほど自分の立場で感じ方が変わるような、お子さんがいる人なら誰しもが経験するような感情がこの本にはつまっているのだと思います。」
「最後の一冊は『小川晋一/ミニマル イズ マキシマル』という本です。じつは今、家を建てていまして、この小川晋一さんという建築家の事務所に依頼をしています。建築ってすごいなって感じていて、もしも自分が高校生のときに建築に出会っていたら、きっと建築家を目指していたかもしれないです。それぐらい若い頃に出会っていたかったです。自分の家を誰が設計したのかというは知っていたほうがいいと最近感じていて、図面がちゃんとある家を子供に残してあげられるように頑張りたいと思いました。住まいで家族のあり方がつくられるし、家族のあり方で住まいがつくられていくとも思います。この小川晋一さんは“Less is More”つまり“少ないほうが豊かである”という考え方なんですけど、いいものを買って大切にすることが最小限になっていくことなように思っています。その考えを子供に伝えたいわけではなくて、そういう考え方だからこの建築家に依頼したということを子供が大人になったときに、この本から感じてくれたらと思います。」
2020年10月24日、都内の「自宅」にて。
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ゆらめきクラシカルランタン”